君は本当に無責任に僕の前から消え失せましたね。

 電車のリズムに酔った様です、気分が悪いわけではなけれど、君の言動を思い出しては忘れていきます。一人では生きられないと君は言いました、寂しいと。でも僕は全くそんなこと思わないのですよ、いざとなれば人間案外、大丈夫な物です。

 知っていたのでしょう、僕らは一人です。

 

 いつか君に話した、故郷に帰るために電車に乗っています。電車のリズムというのはなかなかに音楽的な物ですね、ひどく心地よく感じます。

 もう九月と言っても夏の名残がそこここにあります。電車はひまわりの横を通りました。僕はどういう風に故郷を君に話しましたっけ。ロマンチックに話しましたか、感傷的に話しましたか、事実だけを的確に述べましたか、もうどうでも良いことです。

 僕の話し方を好きだと昔言いましたね、飛行機乗りの話をしたときでしたか。曲乗りの名手が恐怖心など無く、あの青に墜ちて行く快楽に憑かれて止まぬ。そんな話でしたね。

 おかしな事に、故郷の話よりも良く覚えています。

 故郷は昔の友達と一緒に捨ててしまったと、思っていました。でも君がいなくなって、僕は初めて、あそこに帰れるのだと気が付いたのです。

 僕の中にはあの古い町並みや人たちの挨拶や子供の頃の遊びが残骸となって息づいているようです。白く色褪せ骨組みだけを残し、今にも崩壊しそうなそれらは、どうしてか不思議に美しいのです。

 あの空や風景をもう一度見たいとかではなく、それらの中に今どうしても身を置きたいのです。僕は結局思い出など骨組みになるまでほおって置いたのに、壊れる寸前に惜しくなった臆病者なのでしょう。ふるさとは遠きにありて思うもの、そして悲しくうたふもの。そういいながら乞食にもならずに、ふるさとに帰る僕は、悲しい程に愚かです。

 だから、君は消えたのですか。

 君がいなくなる前に。僕ら二人空に墜ちれば幸せだったのでしょうか。今はもう分からないけど、少し、そんなことを思います。

 電車のリズムに酔った様です。真昼の月が細く遠く、まるで君の爪先のようです。

 きれい。

 何処からか妙に間延びしたアナウンスが、駅名を告げました。慌てて鞄を取り、電車を降ります、駅は思ったほど古びてもいませんし、別段変わってもいません。きちんと手入れされていて、所々に見えるペンキの剥がれや、プラットホームから見下ろす地面の雑草が、白昼夢や幻覚でないことを証明しています。いつからか分からないけれど、無人駅のようで、軽い苦みのような後悔を感じます。早く帰れば良かったとか、そんなものでもなく。

 改札を通り、何処に行こうかと少し思いましたが。なんとなく歩き出してみれば、足は勝手に家路を辿ります。

 何処までも続くような、電柱に畑。民族学の模型のような家がばらばらと在ります。何となく、今まで感じたこともないような気持ちが、僕に幽かな違和感を持たせます。

 空が赤くなる一歩手前の時刻、天井はブルーよりもヴァイオレットの様相を呈し、風は夏の熱と秋の寂しさを持ち、何処までも吹き抜けて行くのです。

 あの青に墜ちていく。

 沈むように何処までも、僕自身すら骨組みにかえて。

 あの青に墜ちていく。

 

 

あの青に墜ちてゆく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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