電車と風が
空に向かって風はふいている
電車が通り過ぎた
木の葉がざわざわ言った
あなたの、血のついたTシャツもゆれている。
同じ、空気をすうことを、喜びのように言う人たちがいる
けれどぼくとあなたの間にも風は吹いている。
空色の服に、血が目立つのは
手術をする医者の服が緑なのと同じ理屈。
唇をふるわせて、あなたがいったことばは
風にふかれて、どこにも届かない。
良かったのかもしれない、言葉遊びと警句は、つまらない。
唇から顎をそして細い首を伝って、Tシャツにたどり着く
あなたの、鼻血ほどきれいじゃない。
「悲しい」
いつかあなたは言った
風にふかれた
「寂しい」
あのときあなたは言った
風がふいてた
ぼくはあの電車に乗ってとおくに行きたかった
けれどまだここにいて、てれかくしに笑う。
周りの風景も、音も、風にふかれてどこかに行ってしまう。
芝生もみな、いっしょの方向へ倒れている。
たよりない若い木が、悔しそうに押されている。
貴方の細い腕も、かすかにゆれている。
空に向かって風はふいている
とおくで、電車にブレーキがかかる音が聞こえた。