泡
学校から帰って、鍵を開けて靴を脱いで冷蔵庫から豆乳を取り出して飲む、直方体のパックのちいさな銀の丸に、ストローを突き立てるのが、すき。
ぷつっ
自分が好きな物も分かってない人より、数段ましと思いながら、自分より格好いい人が多すぎてうんざりだ。安っぽいセンチメンタリズムに毒されて、爪先から腐敗しているよ。あのとき、私は確かに何かを決めたはずだったのに、どうしてこんな事になっているんだろう。このまま溶けて流れそう、体が。
手元の雑誌を適当に見ていると、場違いな寓話が一編載っていた。一つ願いを叶えてあげると天使に言われた人が、さわる物全部金に変えることを願って、失敗してた。
シメはこうだった。貴方は何を願いますか。
私は死人に友人はいないし、魔法使いじゃないし、がつがつ生きていることもないし、お金もそれほど無いけど。
願いが叶うなら、天使、その羽をくれ。持ちきれないだけの金をくれ、名誉をくれ。
どれか一つなんて、えらべないよ、ばか。
ぺこんと、軽い音を立てて紙パックがへこんだ、中身はいつの間にかもう無くなっている。ちびちび飲んでたのにな、三本でひとまとめ、ビニールに包んである豆乳。買いにに行かなきゃ。めんどくさいな。
そうだ、天使。今すぐ来て、豆乳買ってきて。