降り込める雨は百年の孤独だ。
 僕はなんと、言えばいい。

 目の前の友人の濡れた髪から落ちた滴は目の前のグラスに波紋を創った。グラスの中の水と滴はもう人の目には一塊りだ、けれど酸素と水素までばらばらになるわけではないから、何時か離れていく。混ざらない。
 梅雨入り宣言から一週間、雨は止まない。 
「帰るよ」
 彼がぽつり、と言った。家に帰るという訳ではない。彼は家を持たない、旅人だからだ。そして生来の雨男でもある。十年雨の降らない砂漠ですら、13ミリ降った事を自慢していた。太陽は飛行機に乗ったときに見るものだと言い張る、そんな男。
 恋人をほったらかして旅に出て、葬儀の日まで戻ってこなかった。そんな男。もちろんその日も雨だった。じとじとと厭な雨だった。今日の雨も、そんなかんじ。彼が首に適当に引っかけたタオルが、灰色に濡れていた。
「旅に、帰るよ」
そうして再び繰り返す。誕生日だろうと言って彼が持ってきた紫陽花の紫が、グラスに生けられてユラリユラリと揺れていた。
「おまえは晴れ男なのに、梅雨生まれなんだな」
少し笑って、彼は言う。
「晴れ男って、君と一緒にいて晴れた事ないよ。じゃあ君は梅雨生まれなの」
「でも本降りじゃないよ」
後半の質問には答えず、そう言って窓の外に視線を移した。僕もつられて外を見る、濡れた窓ガラスは随分粗悪に見えた。紫陽花に目を落とす。枝の端がささくれて、どこかの庭先から黙って折ってきた風だった。
「まあ、僕は11月生まれなんだけどね」
「雨、ふらなさそうだね」
「季節はずれの台風が来たらしいよ」
さすがだ、まさに雨男中の雨男。ナチュラルボーン雨男。
「大変だね」
「なかなかね」
 ふと、君は笑った。雨音が遠くの方で聞こえる。この雨は止むまい。彼を包んで去って行くまで。
 僕は雨の風景を思い浮かべた、湿気を吸って変な色になったアパートのドアを、黒々と足跡の浮かび上がるコンクリートの床を、手すりの錆付いた鉄とはがれかけた塗料の隙間に滑り込む水滴を、深く一様に沈み込むアスファルトの道や悲しく灯る街灯を、水の増えた泥色の川を思い浮かべた、君はその何もかもが関係ないところに帰っていく。そうして君の連れていく雨は、世界中どこでも同じ色に染めてしまうんだろう。

 君に、レインコートを買ったよ。雨男なのに、傘を持たない主義なんだろ。
 そんな一言がどうしても口に出せない。どうやって言えばいいのかもわかんない。


レインコオト

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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