僕の終わりは来なかった


 ぼんやり教室に一人で居る、斜めに差し込む夕日があたりを美しく染め上げていた。ただ僕の学生服は染まらずに黒いままだった。
「帰らないの?」
 級友の女子が僕に笑いかけた。曖昧に笑って返す。少し曇ってきたから、早く帰りなよと言って彼女は足早に教室を後にした。
 僕は目を閉じて、机にだらりと伏した。何百回目だろう、こんな事をするのは。

 僕の時間はループしていた。SFなどによく、ある一定の日を繰り返したりする話があるが僕の生活もまさにそうで。この三ヶ月を何回繰り返したかもう忘れた。三ヶ月もあるとなかなか選択肢も多様で、さっきの女子は何時か僕の恋人だったこともあった。そっくり三ヶ月に起こることを言い当てて予言者としてテレビに出たこともあった。その間にやる映画を全部映画館で見たり、綺麗なコートを買ってずっと町中をふらついたこともあった。知らないことを一から勉強したりもした。でも何もかも、何をしても三ヶ月経てば、桜が満開になれば、元に戻ってしまう。

 最初は、どうにかしようと思った。友達に全部うち明けて元に戻ってしまう日に一晩中手を握って貰う事もあった。結果はいま此処に僕が居るとおり。でも僕は幸せなのだ。この三ヶ月は僕の人生の中で一番良い期間だったような気すらする。何千回同じ台詞を聞こうと、何万回同じ仕草を見ようと、幸せだ。周りの人たちも、気候も、満開になる花の色も、嫌なものなぞ何もなかった。

 春が来る、花が咲く。桜が咲いて、僕は元通りに。

 もう帰ろう、今日は雨が降る、十万回目の雨が降る。立ち上がって窓を閉める為に近づく。校庭から野球部のかけ声が聞こえる、夏の甲子園を楽しみにしておけと、誰かが言っていた。向かいの校舎の、美術室からは明かりが漏れている。美術部がコンテストに出すための絵を仕上げているのだ。何度か見てみたけれど、とても上手な人がいた。夜桜を描いていた。上手くいけば賞も取るのではと思う。そんな結果を見ることができないのは確かに少し寂しいけれども、彼らは今挫折も何も知らずにただひたむきだからとても綺麗だ。
 手に掛けた窓の外には大きな桜の木がある。散るときにはきっとこの部屋の中まで花弁が舞い込むだろう。きっと綺麗で悲しい風景だろう。僕はそれを見ずにすむことに少し安心した。僕は散らない桜だ、悲しいことなぞ何もない。
 もうすぐ百万回目の桜が咲く。蕾はもう柔らかそうな表情をたたえている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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