html> 或る梅

午睡


 やあ、久しぶり。また来たね。もういい加減に諦めたらどうだい。私は諦めたよ、誇れるようなことではないのだけど。長い午睡さ、永遠があるならそれだろう。ああ、君は泣かないでくれ。笑っておいて、どうか。

 君だけは、せめて。

 何でこんな事になったのか、私も解らないんだ。ただ今、午後の光が緩く射し込む病室のベットに腰掛けて、壁を見つめている。背中に羽があるのを、君は笑うだろうか。灰色に拗くれて、生えそろわない羽毛が無様で、飛べそうにもないのだけれど。昔見た芝居のようだね、飛べない翼。コーマエンジェル。横に立っている君は、ベットに手を突いて、悲しそうに俯いている。その息づかいも、暖かさも、側に居て感じることが出来る。そしてベットには、私の抜け殻が横たわっている。

 酷い貌だろう。頬もこけて、髪の毛も無様に切られて、君が好きだと言った自慢の睫も見る影もないだろう。化粧なんて出来やしないから土煙の肌色も乾燥しきった唇も隠しようがない。見せたくなかったよ、こんな姿は。

 多分半分、死んでいるのだと思う。座っている私は、似合わない羽が付いているだけで、姿形は昔のままの私は、この部屋の外に出ることが出来ないし。君の目にも見えないようだ。

 機械の、幽かなノイズと、外から聞こえる鳥の声や風の音、それと君の嗚咽がこの部屋を満たしてゆくよ。床に映し出される点滴の黄色は、近づいてくる春の光で揺れている。知っているかい、梅も咲いたんだ。この病院の横の広い公園、昨日窓から見えたのさ。

 花見に行ったね、昔。私は酔っぱらって君に迷惑を掛けた。環状線の窓から見える細い三日月はとてもとても綺麗で、あの月に行けたならと空想の話をしたっけ。

 

 そのうちこの病室から出られるときも来る。そんな気がするんだ。この羽は、何かの雛の羽に似ているから、時間が経てばきっと真っ白に健やかに広がるはずだ。けれどねじれた羽のある、私の姿が見えない君は、空っぽの身体を見て泣くだろう。時間は戻らない、私達の結論を忘れた訳じゃないだろう。私の空っぽの身体は、確かにすがりついて泣くには丁度良いだろう、けれど、そんなこと嫌いだったろ。君も私も。

 ここを出たら月に行くよ。そうしていつか君の処へ迎えにいくよ。だから君はもうここへは来ないで欲しい。ここには何も無いから。君は外の、鳥や子供の声や、梅の花が咲くところにいればいい。

 もうすぐ春が来るのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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