030504 美しいもの、その他のもの。
本当の宝石は死んでしまったのだ。
黒蜥蜴を観てきた。あの美輪様(敢えてそう呼ぶ)主演の芝居である。しかも三島脚本乱歩原作。
豪華絢爛な闇に酔っぱらって参りました。
内容をお知りになりたくない方は、以下後控え下さい。
いやね、本当に凄かった。要は宝石商の美しい娘が黒蜥蜴という女賊に狙われて、それを救うために名探偵明智が呼ばれる、という話なのだけど。まあ美しい台詞数々!
「夜が寄せ木細工のように犇めいている」とか
「わたくしの心は本当のダイヤ、でもそれを知られればわたくしはわたくしの心を守るために死ぬしかないの」
「若い人たちはそうやって黙っている方がわたくしはすきだわ」
今、参考資料がないものであやふやだけれども、素晴らしいね、一行一行がたしかに詩だ。
そうして物語は彼女の想うようにすすんでゆき、明智を欺き死に至らしめ
(それによって彼女は嘆くが彼女が完璧であろうとするためなのだから)
嘆き悲しむが、明智の死にたった一人手を貸さなかったせむし男に心の内をうち明ける。
美しい娘と、世界一素晴らしいダイヤモンドを手に入れ、最終場が開ける。
金無垢の荘厳な美術館が、青いライトに照らされて、カルミナ・ブラーナが流れる。ゆっくりと階段の上のドアが開き、黒いドレスの彼女が歩みでる。手にはダイヤモンド。巨大な金の薔薇のつぼみの上に静かに置けば、ゆっくりとそれが花開き、この世に一つとない台座になる。
そして彼女が発見した、美しいものをそのまま留め置く技術によって、人形と化した若い人たちが姿を現す。娘も明朝にはそうなるのだと彼女は言う。
なんて美しい世界!彼女が想う通りの世界!
日があけて、扉がまた開く。侏儒が金銀の紙吹雪をまき散らす中、真っ白な美しいドレスに身を包み、彼女はまた美術館に現れる。
もう彼女の夢は崩れているとも知らずに。
娘は偽物だった。せむし男は明智の変装だった、美しい人形たちは忌まわしい警察の手下に姿を変え、ダイヤは黄金の花から奪われてしまう。
そうして彼女は、一人眠る事を選んだ。
明智に恋していたから!
彼女の心は、彼女だけのものであるべきだったのだ。
明智に奪われては、いけなかったのだ!
金いろの、彫刻の施された椅子に、座り込んで。本当の宝石は、彼女の心であった。明智はずいぶん無粋なやり方で、彼女に接したけれど、それは探偵としてやるべき事をやっただけのこと。彼の美学なのだから。
依頼主の宝石商に彼は言う
「あなた方はそうして、偽物の宝石を売って富を築くと良い、貴方の家は屹度繁盛する」
「ええ、偽物の宝石だ!
本物の宝石は今死んでしまったのだから!」
目をつむった彼女に寄り添い、幕は下りた。
純白のドレス。結婚式なのだろうと思った。
カーテンコールが何遍も係り、美輪さんも明智も何度もおじぎをしていた。よっぽど気に入った舞台だったのだろう、投げキッスを客席に送るパフォーマンスまであった。
しかし、結婚式を挙げた黒蜥蜴は、今もあの堅く重い緞帳の裏で、ひっそりと目を閉じているのだろう、瞼も睫も風にそよぎすらせず、美しくその姿を永久に止めているのだろう。
終演後梅田まででて、高校時代の友人と食事など。あつく語りすぎて、落ち着けと何度言われたか解らない。